2007年08月31日

07.8.11 古賀俊昭東京都議会議員 世田谷お蕎麦屋さんミニ集会より

世田谷お蕎麦屋さんミニ集会 

07.8.11 世田谷区某蕎麦店にて 

『古賀俊昭東京都議会議員の挨拶』

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皆さん、お暑うございます。
参議院選挙が終りまして、自民党は歴史的大敗という事で喜んでいる人もたくさんいるのでは無いかと思いますけども、私はここに感心が無くてですね。
今回本来は、拉致問題であるとか、それから日本の安全保障の問題、憲法を含むですね。
そういった事が争点になるべきであったのが、ホリエモン的な次元の、年金がたくさん貰えるか貰えないかと言うそのレベルで選挙が戦われたことに、今の日本の国の姿が象徴的に現れていると思いました。

昨年の人権週間で都庁の一番高いところで展示会をやって頂いて、そのときに横田さんと荒木先生がお見えになりましたけど、石原知事との懇談の中で、東京都として中で何か出来る事をどんどん仰ってくださいという事で、そういう懇談の場からこのポスターの作成が始まりまして。
予算審議を特に経たわけじゃないですけど、知事の執行権の範囲内で、じゃあ東京都に関連する特定失踪者の皆さんを都民に対して啓発するポスターを作ったらどうか?ということでこの作成に入った。
平成19年度の初めから入りました物です。

役人が作りますとね。
こういうポスター作る時はアート紙で作るんですよ。
私どもは選挙をやっておりますから、雨に打たれる。
それから本来一日も早く解決しなきゃいけないんですけど、おそらく今の政府の姿勢、横田さんは昭和52年に拉致被害に遭われた訳ですので、考えてみれば30年、今年の10月で経つわけです。
ここまで放置した政府の責任、それから対応を考えますと、そう1〜2年、今年一年で解決するとも思われませんので、どっちみち作るなら雨風に打たれても大丈夫なような合成紙で作りなさいと言って。
都は最初、アート紙で作る予定にしていたんですけど、合成紙に、私そういうような指摘をして、そういうようになりました。

それからやはりこれだけではポスターやりましたというだけですので、「しおかぜ」のチラシですとかね。
色々配布物を私、縮小してチラシにも使えるようにして貰いたいとそれを要望して、今お手元に配りましたものが印刷物として出来上がりました。
ここに掲載されている人たちについては、特定失踪者の荒木先生の方と警視庁と担当部局とよく相談をして漏れが無いように。
それから問題にならないように十分詰めて貰いたいと言ったんですけども、まぁこの48名という事になったわけです。

それで高さんの関係のお母さんについては、私も散々言ったんですけど、警視庁は反対で結局それは実現しませんでした。
しかし、あれは文藝春秋の平成10年くらいの7〜8年前ですよね。
事細かにこの事件については犯人は誰で、いつ失踪したか?拉致されたか?全部、7年か8年前に分かっていた。
報道されていたわけですけど、これが特定失踪者それから拉致被害者ということで、その犯人を警察が指名手配したのは今年になってからです。
ですから、如何に悠長な捜査が行われているか?
政府の政治的判断も加わっていると思いますけど、犯人が分かっていて、いつの事件か全部背景も分かっていてもいまだ解決につながっていない。

しかも警察庁は国際手配をしていますけども、絶対に捕まらない北朝鮮に逃げていった奴を指名手配して、国内にいる犯人を一人も捕まえないんですね。
これも誠に不思議な話で、荒木先生の方からこの後すぐお話があると思いますけど、国内組織、それから関わった犯人。
組織・犯人については全く指名手配も犯人の拘束も行っていないという、まだまだ戦後政治の大きな闇があるんですね。
そういう組織と戦うのがこの拉致の救出運動だと思いますし、是非皆さんとですね。
東京都に限られた、私は選挙区日野市ですけど、日野市の市民も3名も含まれます。
いるわけです、いらっしゃる。

ですからこういう活動を通してですね。
皆さんと、とにかく一刻も早い全員の救出と犯人の引渡しを求めて活動をしていきたいと思います。
暑い中お集まりの皆さんに心からの敬意を表してご挨拶に代えさせていただきます。
ありがとうございます。(拍手)

★07.8.11 世田谷お蕎麦屋さんミニ集会テキスト一覧表

世田谷お蕎麦屋さんミニ集会 テキスト一覧表
07.8.11 都内某蕎麦店にて

1 古賀俊昭東京都議会議員の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/53401657.html

2 土田東京都麺類協同組合理事の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/54015049.html

3 横田滋 家族会代表の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/58401561.html

4 荒木和博 特定失踪者問題調査会代表の講演
http://piron326.seesaa.net/article/58791944.html

5 宋允復 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会事務局長の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/59470662.html

6 生島馨子さん(特定失踪者・生島孝子さんの姉)の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/59555575.html

7 鈴木智さん(特定失踪者・鈴木賢さんの兄)の挨拶
http://piron326.seesaa.net/article/59681007.html
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2007年08月28日

「千葉にもある拉致」 写真展のご案内

「千葉にもある拉致」と題して、千葉県千葉市の幕張公民館において、国際交流まくはりの皆さんが写真展を開催いたします。
特定失踪者問題調査会のご協力を得て、千葉県関係の公開している特定失踪者16人の写真や、家族からのメッセージなどを展示する予定だそうです。
また今回初公開の写真の展示もあると伺いました。

下記に写真展の案内をお知らせしますので、お近くの方、是非お友達や家族を連れて見に行って差し上げてください。
自分の身近なところにある拉致をこの機会に改めて実感していただき、拉致問題解決に向けての世論喚起の一環となればありがたいと思い、紹介をさせていただきます。



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★日時 平成19年9月1日(土)〜21日(金) 9時〜21時(最終日は14時まで)

★場所 幕張公民館 2階廊下 (JR幕張駅より徒歩4分、京成幕張駅より徒歩2分) 
     住所 千葉市花見川区幕張町4丁目602
     電話 043-273−7522

★展示内容
 ・「千葉から北朝鮮に拉致されたと思われる人々」
 ・「家族が語る被害者の思い出」
 ・「北朝鮮に連れ去られた被害者は生きている」
 ・「メッセージに込めた特定失踪者家族の思い」

★入場料 無料

※詳しくは国際交流まくはりのHPをご参照ください。
http://homepage3.nifty.com/makuhari
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2007年08月26日

イデオロギーよりリアリティ

最近、私は集会のテキストを起こしていない。
集会での登壇者の声を文字に起こして伝えて、果たしてこれがどれだけ拉致問題への関心を呼び起こすことにつながるのか?と根本的な疑問を感じる事が多くなって来たので。

どこの集会に行っても同じメンバー、同じ登壇者。
話す内容も似たり寄ったり。
むろん、それでも集会に滅多に足を運べないROMの方に向けての情報発信は一定の価値が有るとは思うけど、テキスト化に掛ける時間と手間の割りに、肝心要の世論喚起の効果は図れているんだろうか?と、素朴な疑問を感じるのだ。

拉致は国家主権の侵害問題だ!
拉致は深刻な人権侵害だ!

確かにその通り。
でも主権だ人権だと観念的な言葉を声高に発して、果たしてどれだけの世論にその言葉が響いているのだろう?
主権だ人権だというキーワードで訴えてそれに呼応してくれる人は、すでに何らかの行動を起こしているのではあるまいか?

5年前の9.17の時、国民の多くは北朝鮮による拉致という、余りにもむごい現実を前に怒りを発露し涙を流した。
そこにイデオロギーの入り込む余地なんてあったのかな?
あの時、日本列島を覆ったのは、人間としての根源的な怒りや悲しみではなかったか?

でも、実際問題として救出運動の現場に足を踏み入れれば踏み入れるほど、イデオロギーの洗礼を受けないわけには行かない。
もちろん、主権や人権と言った観点からこの拉致問題を考える視点は絶対不可欠。
だけど、そういう言葉を声高に語ったところで、それだけで人の心は動くのか?
拉致被害者を救うために、自分に出来る何かをしようと言う動機付けになるのだろうか???

イデオロギーの発露が不要とは思わない。
家族の方が怒りをあらわにする事がいけないとは言わない。
でもそれだけでは、これ以上の世論の支持を取り付けるのは難しいのでは?と言う疑問も感じる今日この頃。

世論の視線は実に様々。
拉致問題は日本人が責任を持って解決すべき事案である!と叫んだところで、「だから何?」と言われてしまえばそれでおしまいなのも世論の悲しい現実なのだから。

だから私は最近考えを変えて、なるべく現場に出る方向へにシフトを変えようとしています。
街頭に立ち、道行く一般の人に訴える。
イデオロギーと言う切り口とは違う、人の心に響く訴え方を日々模索する。

5年前の9・17を振り返り、あの時感じた人間としての素朴な感情を思い出し、それを私にとっての救出運動の原点としたいから。

被害者救出は待ったなし。
イデオロギー思考に凝り固まるだけではなく、ありとあらゆる切り口を持って世論の理解を求めたい。
少しでも多くの方にこの問題に関心を持っていただき、自分に出来る何かをしようと言う空気を作らねば、被害者救出など遠く及ばないような気がする。

いつも自分に言い聞かせること。
この運動は被害者の命を救う運動。
だから自分の自己満足のために運動をしてはならない。
自分の行なった活動が、本当に被害者救出という目標に近づいているのか、常に自己検証を怠らないこと。

私が支援活動の為に振り向けられる自分の時間には限りがある。
その限りある時間を最大限効果的に使うために、私個人の支援の方向を少しばかり方向転換することにしました。
テキスト化がこのところお留守になりがちなのはそのせいなのであります。
テキストを待ち望んでいる方には申し訳ないと思います。
しかし、今後も文字に起こして価値のあると判断した素材は積極的にテキスト化を致します。
しかし、それ以外の時間はこれまでとは違う活動にシフトをしたい。
そのこと、どうかROMの皆さんにもご承知いただきたいのです。

今、世論喚起のために必要なのは、イデオロギーの看板よりも如何に拉致問題にリアリティを持ってもらうか?と言う点にあると考えます。
主権・人権の旗を振っても広がる世論には限界がある。
だったら初心に戻って、9・17の時の人間としての素朴な怒りや悲しみをもう一度思い出してもらう・・・被害者救出を一刻も早く現実のものとするためにも、その方向で私の時間を使いたいのです。
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2007年08月12日

速報 特定失踪者ポスター掲示記念集会 都内某お蕎麦屋さんにて

昨日、都内某所のお蕎麦屋さんで小さな集会が開かれました。
過日東京都が作成した東京の特定失踪者の情報提供を求めるポスターを、都内のお蕎麦屋さんの組合(東京都麺類協同組合、加盟店舗3000店)が加盟店舗の店頭に貼り出してくださることになり、それを記念して調査会の荒木氏の講演やご家族の訴えの声を聞き、お蕎麦を頂きながらお蕎麦屋さんの心意気に感謝しよう、という趣旨の集会です。
NHKも取材に来てくださり、夜7時の全国ニュースでも放送されたそうなので、ご覧になった方もあるいはいらっしゃるのでは無いでしょうか?

私は当日スタッフの一員として、微力ながらこの集会のお手伝いをして参りました。
登壇者の音声も録音して参りましたので、写真と共にご紹介をさせていただきます。
首都東京のお膝元で、実は拉致被害者救出運動の実態がありません。
そういう厳しい状況の中孤独な戦いを強いられているご家族にとって、今回のお蕎麦屋さんの組合が申し出てくれたポスター掲示のお話は、何よりも温かく励みになる支援であったものと思います。
今回の集会は参加者30名程度の本当に小さな集会ですが、各地で様々な形での支援の輪が広がる事を期待し、当Blogでは集会の模様をご訪問の皆様にお知らせしようと思います。

尚ご紹介する音声の中には少々聞き取りづらいファイルもありますが、何卒ご了承くださいますようお願いいたします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
07.8.11 都内某所のお蕎麦屋さんにて

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★古賀俊昭 東京都議会議員の挨拶

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★土田東京都麺類協同組合理事の挨拶

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★横田滋 家族会代表の挨拶



★荒木和博 特定失踪者問題調査会代表の講演 

演題「東京と拉致」

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★宋充復 「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」事務局長の挨拶

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★生島馨子さん(特定失踪者・生島孝子さんの姉)の挨拶

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★鈴木智さん(特定失踪者・鈴木賢さんの兄)の挨拶

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2007年08月02日

07.7.20 後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)3 戦略情報研究所講演会より

07.7.20 戦略情報研究所講演会 講師:後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)

『後藤光征氏の講演 その3』



不審船・工作船事件
 平成13年9月11日に発生した「米国同時多発テロ事件」では、多くの命が奪われ、我が国の国民にも大きな衝撃を与えました。このため海上保安庁は、米海軍施設、原子力発電所等テロの標的となりうるものの周辺海域に巡視船艇・航空機を配備して警備を強化しました。

 このような状況下の12月22日「九州南西海域における工作船事件」が発生し、海上保安庁航空機による発見から、巡視船による追跡、停船命令、威嚇射撃、強行接舷挟撃、工作船からの自動小銃・ロケットによる攻撃、正当防衛射撃そして工作船の爆発・沈没に至るまでの間の現場の映像が長時間に亘り放映され、巡視船の被弾・破壊、海上保安官の負傷、工作船乗組員の死亡等、国民にとって衝撃的な事実があらゆる報道機関によって内外に伝えられました。
 さらに、海底から引き上げられた工作船の実態は、我が国周辺海域に武装した極めて特異な構造の工作船が徘徊し、拉致、薬物の密輸、密出入国等重大な犯罪を行なっているという不安感を国民に植え付けました。

 この事実は、工作船による拉致の手段を明らかにすると共に、この後の我が国における危機管理体制の在り方を大きく変えることになりました。

 この事件に海上保安庁はどう対応し、我が国の安全保障に如何なる意義を与えたのでしょうか。

 12月21日は、いわゆる花金でした。このとき官公庁は予算案の内示が一段落して、22日,23日は土日、月曜はクリスマスイヴという状況で、世間は非常に華やかで賑わっていたと記憶しています。海上保安庁はこの頃激増していた麻薬・覚せい剤の密輸、蛇頭による密航の取締りに加え、9,11テロの後の沿岸警備で、現場は疲れきっていました。土日も花金も無関係という状態だったと思います。22日の午前1時10分過ぎに宿舎で、本庁オペレーションからの不審船情報を受けた私が「手配はいいか」と聞くと、電話の向こうの保安官からは「全管区の出動を指示している」「しかし、海上は大時化で、日本海側管区の巡視船は遅れるかもしれない」と答えました。この夜、東京の上空も強い北風が吹き荒れていました。私はすぐに出勤し危機管理センターへ入りました。この時既にオペレーションには警備救難部の残業組が入り、本庁職員の非常呼集、全管区本部に対する出動指示等マニュアルに沿って淡々と進められていました。
この段階で、北朝鮮工作船にどう対応するべきか、大筋で海上保安庁は腹を決めたことになります。センターに詰めた職員はさしたる混乱も無く、この段階ではまだ不審船であった工作船の拿捕を目指して作業を進めた訳です。

 この工作船拿捕に関する海上保安庁の一連の行動は、対処方針に則ったものでした。事前に準備されていた方針に基づいて巡視船と航空機、大阪特殊部隊が出動して停船させるための手続きを行い、威嚇射撃を船体まで行なって、工作船の武器による抵抗に対して正当防衛を行なったのです。自爆した後の乗組員の身柄救助については、韓国で拿捕された北朝鮮工作船の情報を得ておりましたから、保安官と共に自爆される恐れが極めて強いため、本庁から現場に対し安全を確保した上での工作船乗組員の身柄確保を指示しました。
 
 この後、海上保安庁は多数の国民や内外の広範な関係者から、数え切れないほどの賞賛と労いと今後の期待の声を頂きました。捜査と以後の工作船対策を進める過程でしばしば問われたのは、「あのような危険な事態に至ることを予測していたのか。何故あのような手段を執ったのか」と言う事でした。海上保安官よくぞやった、という反面、殉職者が出なかったのが不思議なくらい危険な行動を何故執ったのだろう、という国民の戸惑いも感じました。

 漁船を装った工作船の立入検査を行うには、船体に威嚇射撃をしなければ結局逃げ切られてしまうということが、能登半島沖事件でも明確になりました。しかし、船体に威嚇射撃をすれば必ず武器による抵抗がある。巡視船側に最悪の事態も起こり得る。これが工作船拿捕作業の唯一の関門です。
 あの夜、現場に立入検査の指示を出す時点で、我々には海上保安官の安全を確保した上で拿捕できるという確信がありました。この作業で、巡視船の安全を図るには、工作船の武器の射程外、遠距離から船体に向けて威嚇射撃を行なえばよいのです。しかし、遠距離から射撃すると、着弾のばらつきがあまりにも大きくて、工作船の乗組員の身体に危害を与える恐れがあります。このため、接近もやむなしと言う状態になったのです。けれどもこの時点で、安全が確保されると信じた理由は、時化です。当時、海上は冬の季節風による大時化で4〜5メートルの波がありました。この中では工作船が持っている手動式のロケットや機関銃は、接舷するほど接近しても正確な照準は捉えられません。我々は長年巡視船の武器で訓練をしているのでこのことが直感的に判っていました。一方、工作船に比べ2隻の巡視船に装備された遠隔自動照準付きの20ミリバルカン機銃は、巡視船の船体が激しいピッチング、ローリングに遭っても、目標をピタッと狙って正確な射撃ができることが判っていました。これは、工作船の方からすれば、巡視船の海上保安官を攻撃した場合、反対に自分たちも致命的な打撃を被ることを意味し、逃げ切りか、攻撃かという二者択一の選択肢以外は与えられていなかったであろう工作船が、最後まで中国船を装ったのもこのためだろうと思われます。

本庁で、この事件の処理に参画した私は、第十管区本部長を指揮官とし、工作船と対峙している現場第一線の次のような強い意志を感じていました。

 武器による抵抗を予測しながら、工作船を追跡中の指揮官と4隻の巡視船と大阪特殊警備隊の海上保安官の意思を支えていたのは、「これは自分たちの任務だ。今回工作船を取り逃がせば、国民は海上保安庁に対して絶望し、そしてそれは、我が国の安全保障体制に対する絶望に変わって、その次に来るのは想像し難い国家への不信感」という思いです。
 第一線の海上保安官の意識を突き動かして、この様な毅然とした勇気ある行動をとらしめたのは、拉致と組織的な覚せい剤大量密輸という犯罪に対し、海上の治安を司る職業人としての「許せない」という素朴な正義感であったと思います。

 国民の安全を守る責務を職業としているものが、凶悪な犯罪者と対峙したとき「自らの安全を優先し、国民の安全を蔑ろにする事への、恐ろしいほど素朴な罪悪感」を持っていることが、この様な凛然たる姿を可能にしたのです。

 この様な現場第一線における海上保安官が持つ使命感は、領海警備・経済水域取締り、海賊取締り、欧州からの核燃料輸送護衛、蛇頭・暴力団による密航の取締り、内外の無法組織による麻薬・覚せい剤・拳銃・船舶密輸などの犯罪取締まり、国内業者と暴力団による悪質密漁の取締まり、シージャック・テロ・船内暴動を対象とした数々の警備出動、対馬海峡等国境沿岸での外国船密漁取締り等の全国周辺海域での実践で鍛えた能力、たとえば夜間の大時化の現場での相手との駆け引き、拿捕のための操船技術、乗り込んだ船舶の甲板上での逮捕制圧術、事実を証拠化する捜査、爾後の被疑者の取調べ等の事件処理、犯罪の背景にある国内外の政治・経済・社会情勢の分析等から、海上保安官として法を執行するということは、自らに危険を伴う任務でありことの覚悟と、海上の治安を維持し国民の生命・財産を守る警察任務を、国民から負託されている唯一の機関であることの深い意味を飲み込んで、各人の経験の中で醸成されたものです。

 多くの実績の中から、外国人に関するものを挙げると、漁業水域暫定措置法に基づき200海里内の海域における漁業取締りが始まった昭和52年以降の外国船舶取締りでは、領海・経済水域における外国船舶立ち入る検査件数約24万3千件、外国船舶・外国人に係る殺人等海上暴力事犯や密出入国、漁業、公害法令違反等の検挙件数約5千5百件、これらに係る罰金・担保金の合計約7億円であり、最近5年間の薬物・銃器事犯の摘発では、覚せい剤・大麻等の押収量0.5トン、銃砲37丁となっています。また、国際テロを未然に防止するため、国際船舶・港湾保安法に基づき、平成16年7月1日以降昨年末までの間で、外国船約17万6千隻の入港事前通報を受理し、その船の保安措置の実施状況をチェックすると共に約1万4千隻に立入検査を行い厳格な入港規制を行なっています。

この様な、恒常的な警察業務処理が、工作船事件の際、2昼夜に亘る追跡の間、大時化のため激しくピッチング、ローリングする巡視船内で、食事も休息もとれずに、人間の気力・体力の限界にありながら、工作船の武器と対峙するための配置について、指揮官の命令を確実に実行することのみに専念し、巡視船「きりしま」の身を挺した強行接舷により日本政府の強い意思を示し、更に挟撃しようとした巡視船「あまみ」に対して加えられた自動小銃・機銃の激しい乱射の中、ビデオカメラで冷静沈着な採証撮影を行い、巡視船「いなさ」が適正的確に実施した正当防衛射撃を正確に録音録画し、そして、上空で監視中の海上保安庁航空機からロケット弾の攻撃痕を的確に撮影するという行動を海上保安官に執らせ、海上保安庁の行為の正当性(日本国政府の行動の正当性)を国内外に示すことを、可能にしたのです。

巡視船・海上保安庁航空機とその対象船舶という当事者以外が存在しない海上では、法の手続きに則った適正な実力行使と、これを証拠化する高い能力が必須であり、これを欠く場合には直ちに国内外の非難を招き、場合によっては国際紛争を招きかねないものであり、主権と国益を守る領海・経済水域の警備業務には、確固たる使命感と高度な処理能力を持った海上警察機関が必要とされる所以です。

 海上警備の特殊性の一つは、外国領海という追跡権に対する主権の壁が存在することにあり、このため、巡視船にとって相手船の行動が読めないという不確定要素の存在する状況であっても、法の手続きを踏んで現行犯で拿捕するほかに選択肢は無いということであり、海上に於ける警察業務の厳しさと困難性が此処にある、ということです。

 海上保安庁が外国船に対して武器を使用する場合は、厳格な法の手続きを踏むのは当然として、関係国に与える国際的影響を考慮すると、工作船対処のように他に手段が無い場合であり、この様な実力行使は、軍事紛争と海上保安事件の境界を挟んで、海上保安側の最も端にあることから、一歩対応を違えれば、軍事紛争へ発展する可能性が高いのです。だからこそ、我が国の安全保障体制の領海線と二百海里経済水域の外縁にはめられた緩衝装置、車で言えば外からは見えないショックアブソーバの役割をする海上保安官が、自己の危険を顧みず水平線の遥か彼方の国民の知らない洋上で、黙々と領海警備・経済水域警備に従事し、我が国周辺海域の治安を維持し、平時の事件が軍事紛争に発展しないように現場で対処してきているのです。

この事件が、我が国の安全保障に与えた意義は、
1 工作船の様な武装不審船に対する抑止力を確立したこと
2 拉致の手段である工作船を押収し、北朝鮮が拉致・覚せい剤密輸を認めたこと
3 日本周辺の治安・安全保障上の問題が顕在化し、安全保障体制の見直がされたこと
   我が国周辺海域に武装した極めて特異な構造の工作船が徘徊し、拉致、薬物の密輸、密出入国等重大な犯罪を行なっているという不安感が現実に立証されたため、内閣官房、海上保安庁、防衛庁、外務省、警察庁等関係省庁の危機管理体制の見直しを行い、工作船対応のみならず我が国周辺海域と国内における危機管理体制全般の強化を進めるとともに、不審船・工作船対策として、巡視船・航空機などを強化したこと
であると考えます。

最後に
海上警備の課題について、お話します。
海上保安庁は、領海・経済水域の現場第一線で、巡視船艇・航空機等の部隊を運用して、外国船舶の監視、犯罪の取締り等を行い我が国の主権と国益を守ることを国民から負託されています。
海上保安庁の現場第一線の海上保安官は、政府の方針に従って、外国船の監視取締りを行い、必要な場合は外国人を逮捕しその船舶を拿捕します。従って、海上保安庁の実力が現場の巡視船艇・航空機等によって示され、その能力の限界が我が国の海上における警察業務の処理限界となることが多く、また、これは、我が国政府、世論、法律、相手国・現場にある外国船の対応によって、事案毎に異なった対応となります。

このような海上警備に従事する
巡視船は        122隻
巡視艇は        234隻(174隻は小型)
            特殊業務艇        76隻  計  432隻
            航空機          72機
海上保安庁総予算    189、081百万円

     総定員     12,411人            (平成19年度末)
となっております。

全国の海上保安官は、この体制で、海上保安庁本庁の指揮の下、全国11の管区において、 国家公務員の国民への奉仕義務、海上保安官の危険回避を認められない職責、海上保安官が持つ使命感に基づき、わが国周辺海域の治安を維持し、平時の事件が軍事紛争に発展しないよう現場で対処しております。

 6月2日青森県深浦に入港した北朝鮮人の事案では、小さな木造の船が監視網にチェックされなかった訳ですが、広大な海洋の中でのこの種の船の発見の困難性は置くとして、先に話した広大な監視対象海域と長い海岸線を持つ海上保安官の負担について、少し数字化すると、

外国海上保安機関との比較では
                  海上保安庁   米国CG    韓国海洋警察
職員1人当り海岸線延長       2.8km  0.4km    1.2km
職員1人当り経済水域面積     363平方km 166平方km  46平方km

国内治安機関との比較では
                海上保安庁      警察      海上自衛隊
定員 (人)        12,441    288,451   45、812
                         (1/ 23)   (1/4)
    職員1人当り国民数     10,364        442    2,788
                            (23)    (4)

予算           1、891億円  3兆6,046億円  1兆892億円
                        (1/19)    (1/6)
となっており、
予算・定員について、まだまだ国民の皆様の理解とご支援が必要であると思います。

九州南西沖工作船事件の際は、様々な状況から、工作船を拿捕できると確信して行動したものですが、工作船からの激しい抵抗で被弾した3隻の巡視船のうち2隻は、正当防衛手段である武器と防弾装備が工作船対応機能を持たないにもかかわらず、武器による抵抗が必至の拿捕作業を命じなければならなかった、海上保安庁の窮状を考えるとき、海上警備の現場の実態は、国益、相手国との関係、人権、警備手法の秘匿、捜査上の秘匿から、総ての事実が公表されるものではなく、報道機関にとっては物理的に取材困難な場合が多いということ、海に対する国民の関心の低さもあって、日本の安全のために今、水平線の彼方で何が行なわれているのか、そのためには何が必要かについて、国民の間で語られることは少なく、したがって海上保安官の応援団も極めて少数の方々であり、工作船に対応可能な巡視船・防弾等の装備も乏しかっと思わざるを得ません。

その意味で、九州南西沖工作船事件の後、日本財団の強い意思で「海守」が発足したことは、海上保安官にとって多数の理解・協力者が増えることとなり、沿岸警備の面からも国民にとっても心強いことだと思います。

現在、海上保安庁は、切実な問題に直面しております。今後、更に増大し複雑化する海上警備の実態を考えるとき、海上保安官にとって、海上保安庁の体制が米国コーストガード、日本の警察、海上自衛隊に比べると、明らかに重い負担であり、確固たる使命感でのぞんでも、国民の期待に十分に応えられる体制が整っていないのではないか、といわざるを得ない現状、例えば、巡視船の46%、巡視艇の28%、航空機の41%が、耐用年数を経過し、深刻な老朽化問題に直面していることなどです。

それでも海上保安庁は、一人の海上保安官が、海洋権益の保全、犯罪の監視取締り、海難救助、海洋汚染の防止、船舶交通の安全等、何役もこなしている極めて効率的な組織として運用されていることを国民の皆様に理解して頂き、後ろから海上保安官のご家族とともに、支えて応援していただきたいのです。

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※このエントリーのテキストは、調査会の荒木和博氏及び講師の後藤光征氏の同意を頂き、当日の講演原稿をそのまま転載したものです。

07.7.20 後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)2 戦略情報研究所講演会より

07.7.20 戦略情報研究所講演会 講師:後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)

『後藤光征氏の講演 その2』



外国漁船による不法操業の取締り
 九州に基地を置くある1,000トン型巡視船は、日本海から対馬海峡、五島列島沖の東シナ海の領海・経済水域の監視取締りを主任務としておりました。対象となる外国漁船や不審船は、夜間、しかも深夜から早朝に掛けて侵入してきます。夕刻、数百隻に上る対馬周辺の日本漁船群・外国漁船団が煌々と集魚灯、航海灯を点灯して活動を始めると、海上保安官は巡視船の舷窓を閉じて、航海灯を消し全ての灯火が外に漏れないようにし、肉眼では巡視船が全く闇の中に溶けるようにして、全速力で対馬の北から、五島列島の沖までレーダーと肉眼の見張りを厳重にして、衝突事故は絶対に起こさない、しかし少しの異常な動きも見落とさないという態勢で、一晩で領海線の内外を哨戒します。覆面の1,000トンの船が、19ノットで対馬海峡の通航船と漁船集団群の中を、相手に気づかれないように旋回航走し密漁船・不審船を確認するということが、いかに緊張と覚悟のいる哨戒か、夜の対馬海峡を航行した経験のある方なら判ると思います。何も不審なことが無く緊張の一夜が過ぎると海上保安官達は「今夜の対馬海峡一帯は治安が保たれたか」と自問自答し、次の当直に引き継ぎます。
 この様な哨戒の結果、多くの完全無灯火で操業する外国漁船の領海侵犯操業を発見し、暗闇の中で激しい公務執行妨害を受けながら強行接舷して停船させ、まさに身の危険を犯して拿捕し、また国際海峡でしばしば起こる外国船が絡む不審事象を確認し、海上治安機関として蓄積しているのです。

 ある夜の哨戒は、対馬海峡が200−300mの視界の深い霧でした。夜明け前、上空が少し白み、海上はまだ暗く深い霧の中で、レーダー監視員が「2〜3海里先の船影が、中型トロールの動きをしている。」と報告。船長は直ちに総員立入検査・検挙体制を発令。
この海域でこのような動きをするのは外国の密漁底引船以外は無いからです。巡視船の船首先端部、船橋等に見張り監視・ビデオ採証担当保安官を配置し、巡視船に積んでいる高速ボートに立ち入り検査班8名が乗り組みいつでも発進できる準備をし、レーダーで相手の動きを見ながら静かに接近しました。200mくらいの距離で濃い霧の中に、ぼんやりと船の形が見えましたが、相手船の明かりは一切見えません。真っ暗闇の中で明かりの無い2つの船影が次第に近づいていく状態です。突然、船首の監視員から「火花2箇所。グラインダーの切断音。エンジンの加速音。前方船影のもの。」と報告。船橋で指揮していた船長にも火花とチャリン、チャリンというグラインダーでワイヤーロープを切断する音が聞こえてきました。引いている網を漁船の上に引き上げていたのでは巡視船に捕まるので、一瞬のうちに2本のワイヤーロープを切断して網を捨て、身軽になって逃げるためで、密漁のプロの手口です。
 直ちに拿捕体制に入り、高速ボートを発進させ、2隻での挟み撃ちに入りました。相手は、200トン位の中型底引きトロール漁船。国籍を示すものはありませんが一目瞭然、韓国船による領海内侵犯底引き密漁です。相手も必死で、最大速力でジグザグに逃げ回ります。巡視船は1、000トン、長さ70m、速力35km時。巡視船の甲板上には完全装備の立ち入り検査班が一瞬でも接舷したら、密漁船の甲板に飛び込もうと身構えています。しかし、大型巡視船と小回りの効く漁船では、逃げ回るほうが断然有利です。高速ボートの立ち入り検査班は、ジュラルミンの大盾を構えて身を守りながら接舷した瞬間飛び移ろうと機会を窺っていますが、密漁船から高速ボートに向けて乾電池、ビン、ビス、ナット、などあらゆるものが投擲されて、大盾がカンカン音を発てているのが聞こえ、なかなか挟み撃ちができません。其の内韓国の領海が近くなりました。此の時、応援のため、高速で小回りが利く対馬海上保安部の巡視艇が夜明けの海面をすべるように接近して来ました。これに気づいた密漁船は、このままでは拿捕されると思い最後の逃走方法と思ったのか、突然、平行して走っていた巡視船の直前に直角に突進し、反対側に逃げ出そうとしました。巡視船の船長は、瞬間、避けきれないと判断し「後進全速」を令しました。時速35キロで走っている1,000トンの船体が直に停止することはできません。船体が壊れるほどの急激な振動と同時に船橋の不安定なものは全て落下し、乗組員は皆前のめりになり、急激にスピードが落ちましたが、密漁船は、なお前を潜り抜けようと全速で突っ込んできました。密漁船の船橋のすぐ後ろの船体が少し低くなった所に、巡視船の船首が当たり、そのまま食い込んで、ゆっくりと密漁船を横に押しながら急激に速力が落ち、停止しました。現場にいた海上保安官は皆、一瞬、密漁船は巡視船に直角に圧し掛かられて、横倒しになり、転覆すると思ったそうです。密漁船の乗組員全員が甲板上で呆然と巡視船のへさきを見上げていました。幸い、韓国船は、フレームが少し曲がっただけで、怪我人も、損傷も無く、拿捕しました。
 誰も意図して、このような状況を作り出したものではありません。深夜から早朝に掛けた領海侵犯で、他国の資源を密漁しようとする者は必死です。韓国の領海に逃げ込んでしまえば絶対安全となるわけですから、逃げ方も操船の常識の範囲外にあります。捕まえる側の巡視船の保安官も全員その覚悟で、それでも人身事故は双方に絶対出さない、という決意と、経験からくる自信と、何よりも海保が行動することによってのみ、両国間の紛争の原因が減り、この海域の治安が保たれるという使命感が無くては、この任務は果たせないのです。
 この頃、対馬海峡の領海侵犯密漁取締りでは、石、出刃包丁を投げつけられるだけではなく、立ち入り検査のため飛び乗った海上保安官が海上に突き落とされる事件も起きており、極めて困難で危険を伴う外国密漁船の取締りが、厳格に行われていました。

公海上外国船内暴動
 韓国からオーストラリアに向かう8万トンのパナマ籍鉱石運搬船「EBキャリア」において発生した、フィリピン人乗組員が英国人幹部船員に対し待遇改善を求めた船内暴動事件では、船長からの切迫した救助要請無線が、直接海上保安庁に入りました。公海上の事件であり、出港地、仕向地、船舶所有者、乗組員の国籍等全て我が国との関係は無かったのですが、現場が那覇の南100海里で、付近に暴動を鎮圧できる関係国の実力部隊が存在せず、台風の発生も懸念され、英国人の生命に危険が切迫している状況下、関係国から日本政府に救助要請が出され、巡視船隊と大阪の特殊部隊が派遣されました。救助要請は、「刃物を突きつけられ、幹部数名が船長室に逃げ込み、入り口にバリゲートを作っているが、斧でドアを破壊している。銃の有無はわからない。」と言うものです。
現場では、暴動者に対する母国語と英語の無線による説得。武器による抵抗に備えて、ヘリコプターから海面上18メートルの高さの「EBキャリア」の甲板へ完全装備の特殊部隊を降下させ、多数の完全装備の保安官を送り込み、その周囲では巡視船隊による威圧を行い、説得を受け入れれば両者の仲裁を行なうが暴動を続ければ実力で制圧する旨通告し、硬軟両方の交渉を行いながら、海上保安官の部隊が船内の暴動区域に入り込んで両者を隔離し、暴動の原因を調査し、痕跡を証拠化し、那覇港での両国の関係者による話し合いを確約させ、保安官の警備の下那覇港に回航させ、死傷者を出すことなく解決しました。これは国際的視点での治安確保が求められた顕著な事例ですが、実際に海上保安官が鎮圧のため実力を行使せざるを得なかった場合の法的問題や、複数国間の問題を包含した「今ここにある人命の危機」に対して、海上保安庁が蓄積した現場の経験を下に様々な難問を乗り越えながら、人命の救助を行なった一つの例です。
日本はどの点からも当事国では無かったが、海上という特殊性から発生した、緊急かつ人命に係る重大な国際協力事案として、当事国の要請を受け対応しました。
海に国民生活を委ねている我が国は、今後もこの様な事態が発生した場合には、海上保安庁の蓄積した経験を活かして、的確に対応する必要があります。

海賊対策
マラッカ海峡における海賊は以前から在りましたが、我が国において大きな関心を呼んだのは、平成10年日本の会社が所有する便宜置籍船「テンユー号」海賊事件と同じく11年、便宜置籍線「アランドラ・レインボー号」海賊事件です.国際商業会議所国際海事局に報告された、平成18年の東南アジアにおける海賊の発生件数は、17年の122件から88件と減少しており、マラッカ・シンガポール海峡における発生件数は、19件から16件と減少しています。けれども、17年3月マラッカ海峡を航行中の日本籍タグボートが、武装集団に襲撃され、日本人2人を含む乗組員3人が誘拐されるという事件が発生した外、19年4月インドネシアベネット湾で、外国貨物船が10隻の高速ボートの武装集団から発砲を受けるなど、依然として凶悪な事件が発生しています。
東南アジアにおける海賊の発生件数は、引き続き減少傾向で、これは、海上保安庁と沿岸国海上保安機関の連携協力体制の強化と沿岸国海上保安機関自らの積極的な取り組みの成果によるものと思います。
海上保安庁では、巡視船の東南アジア派遣、現地での人材育成、わが国と複数国間での連携訓練、「アジア海賊対策地域協力協定」に基づく情報ネットワークの構築、「東南アジアにおける海上セキュリテイ・海賊セミナー」、海保大への留学生の受け入れなどを実施しています。
協定に基づきシンガポールに設置された情報共有センターには、海上保安大学での留学を経験したフィリピン沿岸警備隊員が勤務しているなど、海上保安庁の人材育成は確実に成果を挙げてきています。海上保安庁では、今後も積極的に東南アジア各国海上保安機関の人材育成支援を行っていきます。

・・・その3へ続く・・・

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※このエントリーのテキストは、調査会の荒木和博氏及び講師の後藤光征氏の同意を頂き、当日の講演原稿をそのまま転載したものです。

07.7.20 後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)1 戦略情報研究所講演会より

07.7.20 戦略情報研究所講演会 講師:後藤光征氏(元海上保安庁警備救難監)

『後藤光征氏の講演 その1』

わが国における海上警備の現状と問題点

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海上保安庁は、昭和23年に創設されて以来、多様かつ複雑化する日本の海の情勢に対応するために、様々な対策を採ってきました。
昨今の日本の海は、排他的経済水域や尖閣諸島周辺海域における海洋権益の保全、テロの脅威、不審船の徘徊等様々な問題が散在しています。
四海を海で囲まれたわが国は、古くから様々な海の恩恵を受けて繁栄を続け、近年、海洋に対する国民の関心が高まる中で、このような問題は極めて憂慮すべきことであり、今や皆さんが海洋国家日本を考える上で、身近な問題として捉えられていると思っております。
海からの多くの恩恵の主なものには、経済活動として漁業、海底資源、海上輸送、マリンレジャーなどがあります。
輸送活動を見れば、
わが国の海上貿易量 約9億4999万トンは世界の約14パーセント
国際貨物の約71パーセント(金額ベース)
     約99パーセント(重量ベース)が海上を利用
食料の約60パーセントを輸入に依存
エネルギーの約90パーセントを輸入に依存など
日本の海が国民生活に密着していることがわかります。

豊かな恵みを受ける海も、一方では世界でも屈指の厳しい海洋気象の海でもあります。皆様は、春一番、夏から秋の台風、冬の大陸からの季節風によって起きる海難のニュースに頻繁に接しております。

恩恵を受ける海と、国民が生活する領土との関係については、わが国の
領土の面積         約38万平方km           世界第61位
領海の面積         約43万平方km
領海・排他的経済水域の面積 約447万平方km(領土の12倍)  世界第6位
体積 約1,580万立方km        世界第4位          
海岸線の延長        約3.5万km            世界第6位
    国の面積当たりの海岸線延長 約92m/平方km      世界第1位
    国の人口当たりの海岸線延長 約27m/百人         世界第1位
となっております。
つまり、わが国は、世界でも有数の広くて深くて海岸線の長い海に取り囲まれている訳です。

この海の利用については、国連海洋法条約によって、領海や排他的経済水域の定義、沿岸国の権利や義務、大陸棚や深海底の資源開発、船舶の通行に関する様々の取り決めがなされています。
国連海洋法条約は、H6年発効、平成16年に145カ国が批准しました。
  我が国は、領海12海里を採用。(領海及び接続水域に関する法律第1条)
・領海の地位は
   沿岸国の主権が上空(領空)、海底、海底の下まで及び生物・鉱物資源の採取に独占権。完全な主権が及ぶ内水とは異なり、沿岸国の平和、秩序、安全を害さない限り無害通航権あり。
  ・排他的経済水域200海里(限定的、機能的な管轄権)
   天然資源の探査・開発等に関する主権的権利。科学的調査に関する管轄権。海洋環
   境の保護・保全。
などについて取り決められています。

このような環境の下、わが国周辺の海洋を巡る諸問題として、
  尖閣諸島、北方領土、竹島の周辺海域警備
  排他的経済水域内の外国海洋調査船監視
  外国漁船不法操業取締り
  東シナ海エネルギー資源開発
  東南アジア航路の海賊対策
  不審船・工作船警備等があります。
これらの諸問題について、海上保安庁がどのような業務を行っているか、事例を加えながら紹介します。

尖閣諸島領海警備
尖閣諸島は、沖縄群島西南西の東シナ海に位置し、魚釣島、南小島、北小島など5つの島と3つの岩礁からなり、魚釣島からは、石垣島まで170km、沖縄本島まで410km、台湾まで170km、中国大陸まで330kmの距離があります。この帰属については、日本はわが国の領土であるとして、問題としていませんが、昭和46年以降、中国、台湾が領有権を公式に主張し始めました。それは、昭和43年日本、韓国、台湾の海洋専門家が国連アジア極東経済委員会の協力を得て、東シナ海海底の学術調査を行った結果、東シナ海の大陸棚には、豊富な石油資源が埋蔵されている可能性があることが指摘されたためです。さらに、平成8年7月に国連海洋法条約がわが国について発効し、排他的経済水域が設定されたことに伴い、台湾・香港等で漁業活動への影響が生じたことに対する不満や、北小島に日本の政治団体が灯台としての構築物を設置したことを背景に、「保釣活動」と呼ばれる領有権主張活動が活発となり、尖閣諸島周辺の領海に侵入するなどの大規模な活動が行われる様になりました。近年では、中国において新たな活動団体が台頭し、急激に勢力を拡大し、領有権主張活動を展開しています。平成16年には、巡視船の間隙を縫って中国人活動家7名が魚釣島に不法上陸する事案が発生しました。18年には、台湾と香港から活動家の乗った船が出港し領海内へ不法侵入しました。

海上保安庁は巡視船等の部隊を派遣し、関係省庁とも協力して警備し、島への上陸を阻止しています。
尖閣諸島は、遠隔地の上、台風の常襲海域という地理的条件にあり、かつ付近に巡視船艇の避難港、補給港が無いため、大規模な警備を行うには、全管区から巡視船艇・航空機を長期に亘り派遣する体制をとらざるを得ないこと、巡視船隊が活動家の船舶を規制・退去させる際に、荒れる海上で巡視船と活動家船舶が衝突・接触した場合には、小さな活動家船舶が大きなダメージを受ける可能性が大きいため、双方に人身事故が起きないように慎重な規制をする必要があることなどから、尖閣諸島領海警備は、極めて大規模、かつ慎重な体制で行うことになります。海上保安庁は、政府方針に基づき常時周辺海域に巡視船を配備し、航空機による哨戒を行っていますが更に警備体制を磐石とするため、新しい巡視船の整備などを進めています。

北方四島問題
わが国固有の領土である北方四島を不法占拠しているロシアは、これらの島々の沿岸12海里を自国の領海と主張しています。北方四島周辺海域は、水産資源の豊かなことで世界的にも有名な海域であり、納沙布岬から貝殻島まで3.7km、一番遠い択捉島まで144kmしか離れていないことから、小型漁船が容易に出漁できる距離にあります。ソ連時代から現在に至るまで、ソ連・ロシアが主張する領海において無許可で操業したなどとして、拿捕される日本漁船が後を絶たず、平成14年から18年までの間に21隻245人が拿捕されています。18年8月には発砲を受け昭和38年以来となる死亡者が出ています。このため、海上保安庁は、ロシア連邦保安庁国境警備局との間で、累次に亘る協議をし、18年12月、同種事案の再発防止のため、両機関間の連携強化について合意しました。海上保安庁は拿捕などの発生が予想される根室海峡周辺海域に常時巡視船艇を配備し、出漁船に対し直接、または漁業協同組合を通じて、被拿捕の防止の指導と漁業関係法令の遵守指導を行っています。

竹島問題
 竹島は、島根県隠岐諸島の北西約160kmに位置し、2つの島と周辺の数十の岩礁からなり、総面積は約0.2平方Kmで日比谷公園とほぼ同じ広さです。政府は歴史的事実に照らしても、国際法上もわが国の領土であるという立場を堅持する一方、竹島問題は平和的に解決されるべきであり、外交ルートを通じて粘り強く解決を図る方針を示しています。海上保安庁は、政府方針に従い、竹島周辺海域に常時巡視船を配備して監視を続けるとともに、わが国漁業者の安全確保の見地から、被拿捕の防止指導を行っています。

東シナ海における資源開発
 豊富な地下資源が埋蔵されているといわれる東シナ海では、日中両国の間で排他的経済水域および大陸棚について、境界を画定するには至っていません。我が国は地理的中間線により、境界を画定すべきとしているのに対し、中国は、中国大陸から自然延長の終点である沖縄トラフが日中間の大陸棚の境界であると主張しています。
 中国は、既に東シナ海の日中地理的中間腺付近に存在する油ガス田に、採掘用の海洋構築物を設置し、一部では生産を開始させています。資源エネルギー庁によると、これら油ガス田の一部は、地下構造上、地理的中間線の日本側にも連続しており、このまま中国が開発を続ければ日本側の資源が吸い取られてしまうことになります。
 我が国は、資源開発問題について話し合う日中協議等において中止を求めています。19年4月の日中首脳会談の際には、双方が受け入れ可能な比較的広い海域において共同開発を行い、19年秋に具体的方策を首脳に報告することを目指すこととされています。
 海上保安庁は、東シナ海で航空機による哨戒を行い中国の開発状況を把握し、情報提供しています。

外国海洋調査船
 中国は、近年、東シナ海などの我が国の排他的経済水域において、調査活動を活発に行っています。平成11年には、33隻の中国海洋調査船を確認しました。この中には、我が国の領海内に進入して調査活動を行う事案もありました。こうした東シナ海における無秩序な状況を解決するため、13年、中国との間で、東シナ海における相手国の近海で海洋の科学的調査を行う場合は、調査開始予定日の2ヶ月前までに、外交ルートを通じ通報することを内容とする「海洋調査活動の相互事前通報の枠組み」について合意し、同年2月から運用が開始されました。その結果、近年は東シナ海において我が国の同意の無い調査活動は減少し続け、17年には確認されませんでしたが、再び18年には7件の我が国の同意の無い調査活動が確認されました。
19年2月は、我が国に事前通報した海域の外である尖閣諸島魚釣島周辺の我が国EEZにおいて、航行・漂白を繰り返しつつ、科学的調査と思われる調査を断続的に行うという事案が発生しています。
海上保安庁は、これら海域において、巡視船、航空機による監視を行い、我が国の同意が無い調査活動を行う外国海洋調査船を確認した場合には、外務省が外交ルートで中止要求、厳重抗議を行うとともに、現場においても、巡視船艇・航空機により無線等を通じた中止要求を行い、海洋権益の保全に努めています。

・・・その2へ続く・・・

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※このエントリーのテキストは、調査会の荒木和博氏及び講師の後藤光征氏の同意を頂き、当日の講演原稿をそのまま転載したものです。
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