2008年12月11日

小川晴久氏 大阪ブルーリボンの会結成5周年記念講演会寄稿誌より

人権に対する彼らの態度の矛盾をつかみ、それをつきつけていくこと   
             二松学舎大学教授 北朝鮮人権活動家 小川 晴久


 私は、今から45年前の学生時代に北朝鮮(北朝鮮民主主義人民共和国)を支援し、学恩を受けた世代の一人です。1970年代前半に主体(チュチェ)思想に幻滅して北朝鮮に対する関心を失くし、1978年一年韓国に留学しました。1993年8月なって帰国者家族の証言を聞いて、始めて北朝鮮の山の中に恐ろしい強制収容所がある事を知って、ショックを受け、1994年2月から「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」で、今年の4月からはNO FENCE(北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会)で、主に北朝鮮の山の中の強制収容所をなくすための人権活動をしてまいりました。この実践に立って「拉致問題解決のために」以下の事を申し上げたいと思います。

一、北朝鮮は自国民をも大量に山の中の強制収容所に拉致していること

  このことは9歳から19歳まで強制収容所に入れられていた姜哲煥氏が、日本での講演で述べたことで、とても印象に残りました。
 北朝鮮には教化所という名の刑務所があります。北朝鮮の刑法には犯罪が明記され、それを犯した者は裁判をへて教化所に入れられることが記されています。しかし、北朝鮮の山の中には管理所(農場)という名の巨大な強制収容所が6ヶ所ありますが、北朝鮮当局は一貫してそれを否認しています。金正日はそれが外部に漏れると父親金日成の権威が落ちるとして、徹底して隠し続けてきました。
 ここは反革命分子とみなされたものが、その家族を含めて、裁判もなしにある日突然放り込まれる所です。家族ぐるみと言うのは反革命分子は三代にわたってその血を絶やせという金日成の教示に基づくものです。ある日突然ある一家が消えるのです。つまり一般社会から山の中の強制収容所へ拉致されるのです。今まで15万〜20万人と推定されてきましたが、最近では20万〜30万人と推定されています。収容所の中には誰がいるのか外部からは全くわかりません。文通も面会も一切許されていません。完全に外部から遮断されています。これを拉致と言わずして何というのでしょうか。
 北朝鮮という国は外国人のみならず、自国民の1%を拉致して強制労働(奴隷労働)させている国(しかも全く秘密裏に)であることを知る必要があります。

二、北朝鮮当局は人権を無視している

 姜哲煥氏と一緒に北朝鮮を脱出した、同じく収容所体験者である安赫氏(共著『北朝鮮脱出』文春文庫上下)は、日本での講演の際、北では人権(インクォン)という言葉を聞いたことがなかったと言って私たちを驚かせました。人券(インクォン)のことで食券のことかと思ったというのです。私は不思議に思いました。北朝鮮の現憲法にも第67条には言論、出版、集会、示威、結社の自由が明記されています。第79条には「人身及び住宅の不可侵、信書の秘密は保障される」とあります。また現行の刑事訴訟法の第5条にも「国家は刑事事件の取扱処理では人権を徹底して保障するようにする」と明記されています。
 1981年9月には世界人権宣言を具体化した二つの国際人権規約(A社会権規約とB自由権規約)に韓国よりも早く加盟しているのです。
 しかるに人権という言葉を聞いたことがないと脱北亡命者たちが一様に言うのはなぜでしょうか。答は一つ。憲法教育、人権教育が全く行われていないという以外ありません。これま全く驚くべきことですが、金日成が1990年5月24日、「帝国主義者たちは民主主義と人権擁護を、我が社会主義を瓦解させる戦略としている」と演説していたことを知るとき、この問題は氷解します。金日成のこの考え方は最近出た『我が党の先軍政治』(朝鮮労働党中央委員会党歴史研究所篇、2006年平壌)の次の指摘にも受けつがれています。「米国は国連と現存国際法のような国際機構と国際法規も、米国の利益のためにのみ必要だと考えていて、世界を思うままにする手段として利用している。」(28頁)
 ここにいう国際法規のなかに北朝鮮が自ら批准している国際人権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)も入っています。 
 金日成が「人権擁護」の主張を自国の体制を瓦解させる西側の戦略だと指摘した以上、人権を敵視してきたことは明白です。憲法に明記してありながら、それを守る意思がないのは、このような敵視観が根底にあるためです。拉致問題に取り組む人たちは、ここをしっかり認識することです。ここが北朝鮮当局の最大の弱点、弱みでもある所です。
 国連という国際社会の中では、また対外的に国際基準である人権を一応は尊重する態度を示す、しかし、内部に向かっては人権敵視を公然と表明し、およそ人権というものを守ろうとしない。この矛盾を国際社会は、日本政府は、拉致問題に取り組む人々は、絶えず追及していく必要があります。あなたたちにとって憲法が国内の最高法規ではないのかと。憲法教育はどのように行われているのかと。国民は憲法や自国が批准している国際人権規約にアクセスする権利、知る権利があるのかと。1999年12月25日付で北朝鮮が国連人権委員会に提出した前記自由権規約の第二回報告書に、国際人権法規が朝鮮語に翻訳し、各級機関に置いてあると述べていますが、その査察が必要です。本当に実行しているか否かの。

三、人間のクズという考えを批判すべき

 上に見たように北朝鮮当局が人権を守る姿勢にないことは、悲しいことです。否、悲しがっているのではなく、怒らなければならない態度です。北朝鮮当局が人権というものをまったく理解していないのは、「社会政治的生命体」論(チュチェ思想の根幹)に基づいて、社会政治的生命を失った者は人間のクズである、彼らの人権は適用されないと言っている所に見てとれます。金日成や金正日の指導を認めなかったり、それを批判した者は社会政治生命を失った者とみなされ、彼とその家族は裁判もなしに山の中の収容所に送られ、一切の人権が剥奪される扱いを受けます。人間のクズだから人権は保障されないと言うのが彼らの言い分です。
 「社会主義社会では、反革命分子達について言えば、その者達は徹頭徹尾人民の利益に反した反逆者、売国奴達であり、人権を蹂躙した人間のクズどもだ。こんな者に人権という言葉は当たらない」「社会主義人権は社会主義に反対する敵対分子達と、人民の利益を侵害する不純分子達にまで自由と権利を与える超階級的な人権ではない。」(「真の人権を擁護して」署名入り論文、1995年6月24日労働新聞、『生命と人権』第5号1997年秋号所載)
 「人権を蹂躙した人間のクズども」という指摘は、全く奇妙な、人権というものの無理解を示すものです。「人間のクズ」といういい方自体が人間の否定であり、人権の否定です。人間のクズだから人権を適用しなくてよいという収容所の中での非人間的扱いは、外に出したら金日成の威信が失墜するほどのひどい扱いになるわけです。
 しかし、北朝鮮が1981年9月に加盟した市民的および政治的権利に関する国際規約(前記B契約)は、第10条で、自由を奪われた者(つまり囚人)も人間の尊厳は保障されなければならないと言っています。上記の考えは完全にこれに反しています。考えてみると、この10条はとても重要な規定です。これでこそ人権の思想です。もし囚人なのだから、人間の尊厳は守られなくてよいと言うことになったら、刑務所や強制収容所での人の取扱いは何をしてもよいことになります。金日成や金正日が強制収容所を秘密にしておかなければならないと考えたのは人権に反することをやっていることを自覚しているからです。
 ここまで来てはっきりするのは、北朝鮮の為政者にとって一番の弱みは、強制収容所の中身が知られることです。その中身が知られると、彼らの人権に対する態度の矛盾が白日の下に明らかになります。いかに彼らが人権は超階級的な概念でないと言いはろうと、金日成の威信が落ちると考えていること自体、人権が超階級的なものであることを立証しています。自分がやられたら悲鳴を上げる収容所でのひどい取扱いを白日の下に引き出し、あなたたちやあなたたちの家族が同じような扱いを受けることを本当に認めるのかと迫っていく必要があります。

四、拉致問題の解決の方法

 拉致問題の解決もこのような方法で迫っていくしかないと思います。まず彼らの人権に対する態度の矛盾をしっかりつかむことです。憲法にも刑事訴訟法にも人権の既定があります。国際人権規約や子供の権利条約や女性差別反対の国際条約に北は加入しています。これらをまず確認し、人間のクズという考えを彼らが撤回しなくても「人間のクズ」にも人権があり、適用されると考えることが人権の思想であることを彼らに公然と主張し、それでも態度を改めないときは、強制収容所の実態を暴露し、彼らにつきつけることです。この実態は今や百%に近い所まで体験者の証言で明らかにされています。拉致の解決を望む人たちは体験者の手記を一種類でも読んでおかないと、残念ながら解決を早めることが出来ないと思います。
 以上のことを提言いたします。

なお、NO FENNCEのホームページをみて頂けると幸甚です。
http://nofence.netlive.ne.jp


posted by ぴろん at 07:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 拉致問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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