2008年12月14日

野口孝行氏 大阪ブルーリボンの会結成5周年記念講演会寄稿誌より

大阪ブルーリボンの会結成5周年講演会に寄せて
 北朝鮮難民救援基金  野口孝行

 北朝鮮をめぐる状況をどうにか変えていきたい――。多くの人たちが抱いている思いではないでしょうか。私たち北朝鮮難民救援基金も、同じような思いを感じながらこれまで活動を続けてきました。
 日本人を含む外国人拉致被害者の人権だけでなく、自国民の人権さえも認めないのが現在の北朝鮮です。北朝鮮が元凶となっている問題については、すでに多くの人が見聞きしている通りです。そして、それらたくさんの問題の中でも、特に私たちが懸念しているのが、北朝鮮難民をターゲットにした人身売買の問題です。そこで以下のスペースでは、この問題に焦点を絞って述べていきたいと思います。
人身売買の犠牲者の数は、中国において正式な調査をすることができないためもあり、正確な数は分かっていません。しかしその数は、脱北者の70%に及ぶと私たちは推定しています。ちなみに、基金のシェルターが存在する中国東北部の各村で調査したところ、村民の10〜20%が北朝鮮人女性であり、彼女たちはこれらの村々の男たちに売られてきた人たちであることが分かっています。
女性脱北者のうち、少なくとも半分は出産適齢期の女性です。また、漢民族と朝鮮民族との間に生まれた子供たちの数は3万〜3万5000人におよぶと推定され、その殆どの子供たちは戸籍を持っていません。
 私たちが出会った人身売買の犠牲者のなかには、8歳という幼さで人身売買の標的にされたという少女もいました。吉林省和龍市の朝鮮族の家庭に買われた彼女は、14歳になると1500元で漢族の男に売られたそうです。その後、19歳の時に子供を産むと、再びブローカーを介して別の男に売られていきました。
残念ながら、現在、彼女の行方は分かっていません。このように、一度売られた少女たちが、出産後に再び売られるケースが多発しているのです。
 女性たちの値段は様々です。通常20歳までなら5000〜1万元(約7万5000〜15万円)が相場です。30歳までなら3000〜5000元、子持ちの40歳までなら2000〜2500元、そして、子供たちは500〜1000元で売られていきます。
買い手のなかには、安値で少女たちの仕入れ≠し、その後年ごろになると高値で売り払うといった商売≠している人間が存在します。彼らは北朝鮮の女たちを家畜同然に扱い、右から左に売りさばくことで金儲けをしているのです。
今年は事情が変化しました。女性の値段が上がり、20代の女性が2万元で売買されるようになったのです。その理由は、脱北女性の減少にあります。8月の北京オリンピックのために取締りが厳しくなったことに加え、生命の危険をもたらす強制送還を恐れ、北朝鮮人女性たちが脱北をためらう傾向が出てきたことが脱北女性の数の減少につながりました。
 そもそも、北朝鮮人女性の取引が始まったのは1985年ころのことです。当時はまだ組織的な人身売買は行われていませんでした。通常の方法では結婚できない農村部の中国男性とのお見合いという形で、ブローカーたちが取り仕切り、中国政府もこれを歓迎したため、逮捕および強制送還ということはありませんでした。
ところが、中国の開放経済政策から取り残された中国北東部の3省からは、若い女性たちが中国南部の経済圏、日本、および韓国へと出稼ぎに出て行くようになりました。こうして農村部の女性人口が減少したため、北朝鮮の女性に対する需要が増大したのです。中国人女性の代役として、若い北朝鮮女性の役割が増し、ブローカーたちがこの状況を利用しようと組織的に商売をするようになっていきました。
 2000年ごろからは、北朝鮮人女性の人身売買はさらに深刻なものになります。より多くの女性が命がけで中国に脱出し、ブローカーの手に落ちていったのです。それを裏付けるように、当時、私どものシェルターの担当者たちは、人身売買の犠牲になった脱北女性たちに関するレポートを数多く送ってくるようになりました。
 時間の経過と共に、中国の警察は北朝鮮国家安全保衛部と密かに連絡を取り合い、農村部の中国人男性と違法に結婚しているこれらの女性を逮捕し、北朝鮮へ強制送還し始めます。中国では、北朝鮮女性との間に生まれた子供には戸籍が与えられないため、女性が北朝鮮に送り返された場合、子供は孤児になります。こうした子供たちは、通常、部屋と食事のかわりに牛の世話をしたり、耕作の手助けをして生き残っていくしか道がありません。
北朝鮮人女性が産み、中国人に売られていった子供たちの将来は寒々しいものです。自分の国も親も選ぶこともできません。子供たちは無国籍であり、北朝鮮人でも中国人でもありません。教育を受ける権利もその他の権利もありません。彼らの人権は認められず、ただの不法滞在者と見なされます。こうして彼らは、極度の貧困の中で徐々に弱っていくのです。
 昨年の初頭のことになりますが、5歳になるキム・ヨンソンという女の子の母親が逮捕され、北朝鮮に強制送還されてしまいました。母親の罪は、北朝鮮国内での飢餓から脱出し、生存する術を求めて中国に来たということのみでした。
 キム・ヨンソンの母親は、6年前に北朝鮮を脱出すると中国人の男性に売られ、強制結婚の後、すぐに妊娠させられました。こうして生まれてきたのがキム・ヨンソンです。この子は現在、基金の里親制度の保護下で生活を送っています。
ヨンソンの母親が北朝鮮に送還されるのはこれで3回目でした。母親は自分の祖国によって、これまで以上の厳罰に処せられたはずです。私たちは、ヨンソンの母親が再び北朝鮮から中国に逃げてくることはないだろうと思っています。
こうした悲劇は、日本海のすぐ向こう側である中国と北朝鮮の国境地帯で頻繁に起きています。私たちは、このような悲劇を一つでも減らしたいという思いから活動を続けていますが、残念ながら劇的に減らすことはできていません。ですが、今後もあきらめることなく活動を続けていくつもりです。
拉致の問題も北朝鮮難民の問題も、それを生じさせたものは北朝鮮の金政権です。この政権が、他国の一般市民の人権を踏みにじっているだけでなく、自国民の人権さえも蹂躙しています。
では、金政権によるこうした悪辣な行為を一刻も早く止めさせるために、私たちには何ができるのでしょうか。それは、一人ひとりが想像力を働かし、自分たちの強い意志を北朝鮮に示すことではないでしょうか。
自分の息子や娘がある日突然外国に拉致されてしまったら……。自分の妻や妹が人身売買の対象となり、家畜のように扱われたら……。こうしたことを今一度みんなが真剣に考え、その残酷さを改めて想像してみる必要があると思います。そうした上で、朝鮮をめぐる状況を変えるのだという強い意志を再び示すのです。
肝心なことは、外国に頼ることを考えるのではなく、これらの問題は自分たちの問題であると実感し、自らの強い意志を北朝鮮に突きつけることです。私たち自身の信念に基づいた行動があってこそ、結果的に北朝鮮が犯している誤りを正していくことになると信じます。すべての私たちの力を結集し、必ずや問題を解決していきましょう。


posted by ぴろん at 12:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 拉致問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。