2008年12月14日

萩原遼氏 大阪ブルーリボンの会結成5周年記念講演会寄稿誌より

半世紀ぶりの朝鮮半島の変化、この機会を逃すな

北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会名誉代表、大宅賞作家、元赤旗平壌特派員    
                                             萩原 遼


半世紀以上も変わらなかった朝鮮半島の状況に動きが出てきた。この機会を逃さず、日本は独自外交を進めるときである。運動する側もこの機会を生かさねばならない。
私のいう変化とは次のことである。
1.北朝鮮の独裁者の死期が近づいた。
2.アメリカが北朝鮮に貼りつけていた「テロ支援国家」の指定を解除した。その結果、米朝国交正常化の動きが見えてきた。
3.日本の独自の役割がいっそう大きくなった。
以下、私の考えをのべたい。

   金正日独裁者の終焉

独裁者金正日が重態との報道が9月ごろから流れ始めた。9月9日の国家創建60周年記念日にはじめて金正日が出席しなかった。10月10日の朝鮮労働党創立63周年記念日にも出てこない。これらが重態説を裏付けている。
かりに重態でなくとも、金正日もすでに67歳。そろそろ寿命は尽きるころである。若いころからの放埓の生活、つまり酒と乱脈な女性関係などで健康をむしばんでいることは各専門家が指摘している。
 金正日の後継者を決めるときである。彼がいままで後継者を決めなかったのは、もはや彼の権力基盤はなかったからである。ということは、中国の支配力が浸透していて北朝鮮独自では重要なことが決められなくなった。
中国の支配力とは次のことがあげられる。@北朝鮮は軍事と食糧をほぼ全面的に中国に依存している。Aレアメタル獲得競争の中で、中国がそれを豊富に持つ北朝鮮を地下資源供給地としてしっかり握ろうとしている。B日常生活品の90%以上が中国製品であり、中国は商品市場としても北朝鮮を有益とみている。
以上のように中国抜きでは重要政策を決定できないほど大きな影響力を持っている。後継者問題もしかり。かつて金正日は、自分の妻高英姫を持ち上げることで二男正哲、三男正雲を後継者に担ごうとしてキャンペーンを始めた。ほどなく金正日の妻が急死し、キャンペーンは中止されるという奇怪な動きがあった。正哲、正雲を喜ばない勢力がいる、としか考えられない。  
中国の考える北朝鮮の後継者像はこうだ。改革開放を大胆に進める人物であること。いつまでたっても閉鎖的な社会主義的集団農場制度にしがみついていて、農業の失敗ですぐ食糧をくれと泣きついてくる北朝鮮。中国の農業改革をみならって食糧ぐらい自給せよと中国のはらわたは煮えくり返っている。
こうした体制を変えて中国の考えに沿った人物を後継者にと考えるのは自然の流れである。金正日の二男、三男の芽が摘まれたら残るのは長男の正男しかない。彼は1990年代から中国に拠点を置き、中国に庇護され、各国を渡り歩いて事情に明るく、英語フランス語も多少話せて、コンピュータもよくできる。
彼を少年時代からよく知る黄長Y氏(1997年に韓国に亡命した北朝鮮高官)は金正男が後継者になると断言している。
金正日の後継者が中国主導で進むなら建国以来はじめて、北朝鮮も中国式の改革開放路線に変わる可能性が出てきた。
そうなると拉致被害者の奪還にも有利となる。なぜならば、中国は日本人拉致には関心がない。中国は拉致にこだわって日本と対立する何の理由もない。拉致者を全員日本に返し、国交正常化をやらせて3兆円とも6兆円ともいわれる日本からの賠償金(経済協力資金)をとることが大事だと中国は見ている 。その金を北朝鮮のインフラ整備や農業改革にあてれば、北朝鮮の地下資源がほしい中国にも大きなメリットである。鉱山を採掘したくても電気が来ない北朝鮮ではどうしようもない。鉄鉱石を中国に運びたくても道路も港も日本の植民地時代のものを使っている北朝鮮である。
中国の考える北朝鮮の改革開放体制は、これまでの鎖国状態を解体させるであろう。これはわれわれ日本国民にとっても新たな展望を開く。
日本はこの機会を逃すべきではない。北朝鮮が改革開放に進むなら、そして拉致問題、在日朝鮮人帰国者(1960年代に地上の楽園に帰ろうという虚偽宣伝で北朝鮮に移住した在日朝鮮人と日本人妻10万人)問題を解決するなら国交正常化も経済支援もすると約束し彼らをその早期解決に誘導することだ。

   究極のカードを切るアメリカ

アメリカは今年(2008年)10月に北朝鮮の「テロ支援国」指定を解除した。それ自体が目的ではない。米朝国交正常化が目的なのだ。「テロ支援国」の烙印があると国交ができない。「テロ支援国」のままでは国交どころか世界銀行への加盟など国際社会の仲間として迎えることもできない。解除は国交正常化へのステップなのだ。
 ではなぜアメリカは北朝鮮と国交を結ぶのか。朝鮮半島でアメリカの権益を失いたくないからである。このまま何もしないでいると北朝鮮は中国の事実上の属国となる。アメリカの入り込む余地はなくなる。
北朝鮮も中国なしでは生きられないが、中国が嫌いである。そのためアメリカを引き寄せて中国を牽制しようとアメリカに秋波を送り続けてきた。北朝鮮は朝鮮半島の分断の元凶は米軍の韓国駐留にあると叫んできたが金正日になって親米に変わったとこれまでも言われてきた。たとえば『南北首脳会談への道――林東源回顧録』(岩波書店 27〜28ページ)には次の記述がある。金正日は1992年に腹心の幹部をアメリカに派遣して、在韓米軍は朝鮮半島の平和維持部隊として容認するとの見解を伝えたという。アメリカにとってもこれは悪い話ではない。中国を牽制するためにアメリカは米朝国交正常化をして平壌に大使館を置きたい。
だが米朝国交正常化には、もう一つの壁を乗り越えねばならない。朝鮮戦争の終結が必要だ。いまなお朝鮮戦争は一時休戦中で、完全な終戦ではないからだ。終戦するには休戦協定の署名国である米、中、北朝鮮の合意が必要。北朝鮮は以前から終戦にしたいと主張してきた。中国も問題ない。米がその気になれば解決する。これらの壁を乗り越えてようやく米朝国交正常化となる。米朝の思惑が一致して半世紀以上続いた双方の敵対関係は清算の方向へと動き出した。アメリカがもつ朝鮮戦争終結カードを切り始めたわけだ。究極のカードである。
 朝鮮半島が平和的な環境になれば金日成・金正日親子の独裁体制は大きく変質する。これは拉致解決と帰国者問題解決にも良い展望を開く。
朝鮮半島が平和的な環境になれば金日成・金正日親子の独裁体制は大きく変質する。これは拉致解決と帰国者問題解決にも良い展望を開く。
 多数の拉致被害者を抱えた日本が、アメリカによる「テロ支援国」指定解除や米朝国交正常化を歓迎するのは矛盾ではないかとの声もある。われわれ日本人としてはアメリ 
カがもっと頑張って北朝鮮を追いつめてほしいとの願望がある。北朝鮮からの脱北者は
アメリカが北朝鮮を爆撃してほしいという人も少なくない。だがアメリカは自分の国益のために動くのであって、正義や人道や他国の頼みで動くのでは決してない。それを冷厳に受け止めて日本は日本の国益のために動くべきだ。アメリカの裏切りと中国の支配力の増大という変化した環境で日本の役割も増大しているし、いっそうの独自色を出さねばならない時にきた。

   日本の役割の増大

日本は北朝鮮の「テロ国家」指定解除を受け入れることはできない。拉致はテロそのものだ。拉致犠牲者は政府認定で20人近い。特定失踪者調査会の調べでは拉致可能性が濃厚な人を68人と発表している。一説には500人前後という数字もある。私はこの方が実際に近いとみる。これら日本人同胞が北朝鮮で奴隷の立場に置かれていて何がテロ国家ではないといえるのか。
アメリカがこれまでの約束を投げ捨て、国益にそって指定解除するのは勝手だが、日本は断固としてテロ国家北朝鮮と認定しなければならない。独自でテロ国家の指定をすること、さらなる制裁を加えることである。アメリカ頼み、よその国頼みではなく、独自外交に進むことだ。拉致と在日朝鮮人帰国者問題を解決するなら、国交正常化も経済支援もすると主張しながら、北朝鮮に解決を促すことである。
 中国主導の改革開放や、米朝国交正常化で有利な条件が生まれるといって、日本がただ外国頼みでは取れるものも取れない。
自国の立場を主張するだけではバスに乗り遅れるとか、日本だけがカヤの外に置かれるという意見がある。こういう主体性のない小賢しい意見が、拉致問題の解決を遅らせてきたのだ。バスに乗り遅れることも、カヤの外も心配いらない。なぜならば、中国主導の改革開放も米朝国交正常化も、金なしには進まない。その金の出所は日本である。3兆円とも6兆円ともいわれる金を中国も米国も出すつもりはないし、出す力もない。日本しか負担できない。
 であるなら日本は大手を振ってこの問題を推進すべきである。アメリカが日本を裏切って北朝鮮と友好を楽しむのも良い。だが、日本はいまの段階ではそれはできない。6カ国協議はアメリカと中国の思惑による仲よしクラブであり、核問題も拉致問題も解決するものではなかった。こんなものに加わっていて何がいったい進展したのか。北京五輪成功のために朝鮮半島の平安を願う中国が一番熱心だった。
いま、核にしがみつくしかない金正日の終焉が迫るなか、中国にとって6カ国協議の有用性も薄まってくる。日本が独自外交を展開できる領域が広まったといえる。
 中国による北朝鮮の体制変化と、米朝国交正常化の推移を見つめつつも日本は北朝鮮の独裁体制と断固として対決し、拉致犠牲者を取り戻し、拘禁されている在日朝鮮人帰国者・日本人妻を取り戻さなければならない。

   政府は頼りになるか

 拉致は国家犯罪である以上国家が前面に出て動かねばならない 。しかしその国家が見て見ぬふりをし続けてきた以上、国民の力で推進するしかない。かつて小泉元首相が2002年9月に平壌に飛んで金正日と会見し5人の被害者を取り返し、その家族を日本に連れ戻したことをあげて、あたかも政府の役割の大きさをいう人もいる。まったくの錯覚である。それは列車が走ると外の景色、山や建物が動いているかに見える。目の錯覚にすぎない。それと似ている。
 小泉元首相が平壌に行ったのは、2001年1月に北朝鮮からの密使が当時の森首相のところにきて、拉致をすべて解決するから森首相に平壌に来てほしいと要請があったからである。森氏は“神の国“発言など失言多発で失脚したため次の小泉首相にお鉢が回ってきたにすぎない。金正日が拉致を自白したのは、ブッシュ政権登場に怯えた北朝鮮が日本にすり寄ってきたのである。拉致をえさにすれば日本は食いついてくると金正日はみた。日本と国交正常化すればアメリカの攻撃からも逃れられる。多額の経済協力資金が取れ窮地を脱せられるとみたのである。
当時日本は拉致が国民的課題となっていた。そうした状況をだれがつくったのか。拉致被害者家族会の努力をはじめ国民の立ち上がりである。日本政府が主導したのではない。まして小泉氏の力ではさらさらない。
 政治はこの国民の高まりを利用しただけである。運動があって政治が動くのである。この因果関係をよく理解して運動を進めることが大事だ。政治家には立派な人もいるが有象無象も少なくない。 国民の運動こそが政治を動かしてきたことを拉致関係者はじめすべての運動参加者は肝に銘じてもう一度原点に戻り、新しい状況を乗りこえていこうではないか。


posted by ぴろん at 12:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 拉致問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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